フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略
クリス・アンダーソン 著
小林 弘人 監修
高橋 則明 訳
日本放送出版協会
雑誌Wiredの編集長であるクリス・アンダーソンが書いた21世紀のフリー(無料)の世界について書かれた本。著者は、数年前ロングテールという言葉を世に出し、同名の本を書いた人物だ。
本書ではフリーの歴史から現在までを書いており、特に21世紀の新しいフリーの仕組みを実例を元に書いている。また、フリーの反論に対しても1つ1つ丁寧に答えているところがすばらしい。
以下は、フリーの4つのタイプ
・直接的内部相互補助
商品本体は無料だが、別の売上(消耗品など)で収益を上げるタイプ
(例)ジレット(剃刀)本体は無料だが、替え刃が有料
(例)携帯電話は無料もしくは非常に安価だが、通信費が有料
・第三者市場
商品は無料だが、別の第三者が費用を払っているタイプ
(例)テレビやラジオの放送は無料だが、番組の合間に広告があり、広告主が費用を支払う
(例)Google、Yahoo、Flickrなども同様
・フリーミアム
フリー+プレミアムの造語で、機能制限などがある無料版とフル機能の有料版がある
(例)商品のサンプル/試供品は無料だが、正規の商品は有料
(例)Evernoteでは月のアップロード制限や保存形式の制限がある無料版と制限がない有料版が存在
・非貨幣市場
名声、ステータス、自己満足など対価なしで貢献する人がいることで無料となる
(例)オープンソースソフトウェア
(例)Wikipedia
この4つのタイプは以前からあるものだが、特にフリーミアムは現代においてかなり様変わりしている。以前は5%の商品を無料にするために95%の商品を売るという考え方だったが、今のデジタルな時代では95%の無料商品を5%の有料商品でカバーすると逆になっている。これは、ムーアの法則に沿って、デジタルデータが急激に価格を下げてほとんど無視できるほど安価になっているからだ。また、5%と言っても母数が大きくなればそれなりの規模になるため、95%の部分は安くするのではなく無料にするのが正しい選択だ。人は100円と101円では大した違いを感じないが、無料と1円ではお金を払うか払わないかのなので大きな違いとなる(ペニーギャップ)。無料にすることで母数を大きくする(ユーザを最大限獲得する)最大化戦略をとることが重要だ。
本書の中で、お金の流れを逆にすることができると良いということがあった。例として、1週間に1度ジムに行って運動すると月額費は払わなくてよくなり、1度でも行かないと月額費を払わなければならないというスポーツクラブがあるらしい。これは、運営費(マシン維持費、人件費、場所代など)はお客さんの多い/少ないに左右されないことが前提で、お客さんがちゃんと定期的に通うと売上は減るが、変わりに飲食費や有料トレーニングなどで補填できるという仕組みだと思う。また、クラブ内に広告を用意し、お客さんの入りによって広告費を変えるなんてこともできるかもしれない。この支払システムはなかなかおもしろく、こういったビジネスモデルが今後増えてくるかもしれない。
もう1つ注目すべきは、4つ目のタイプの非貨幣市場だ。お金なくしてなんらかの労働を行うこと(いわゆるボランティア)が、デジタル時代になり多くなっているような気がする。デジタルの世界ではこれが評判(リンク)と注目(トラフィック)になり、これが経済と同じ力を持っていることになる。そういう私も本書(だけでないが)の自分なりの書評を対価なしに書いて、多くの人に読んでもらいたいと思っている(実際、多くの人が読んでいるわけではないが...)。
スポーツクラブの例はデジタル世界の話ではないが、今後ますますデジタル世界の価格は下がりフリーのものが増えてくると同時に、個々のカスタマイズされたデータは稀少となりフリーの周りで生計を立てる新しいビジネスモデルが生まれてだろう。最後に無料の10のルールを載せておく。
無料のルール
(1) デジタルのものは、遅かれ早かれ無料になる
(2) アトムも無料になりたがるが、力強い足取りではない
(3) フリーは止まらない
(4) フリーからもお金儲けはできる
(5) 市場を再評価する
(6) ゼロにする
(7) 遅かれ早かれフリーと競いあうことになる
(8) ムダを受け入れよう
(9) フリーは別のものの価値を高める
(10) 稀少なものではなく、潤沢なものを管理しよう
2010年5月25日火曜日
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