2010年10月27日水曜日

クラウドの衝撃

クラウドの衝撃――IT史上最大の創造的破壊が始まった

城田 真琴 著

東洋経済新報社



クラウド・コンピューティングについて分かりやすく解説している本。クラウドの定義から始まり、仕組み、クラウドでのキープレーヤーとなる企業の動向、クラウドが及ぼす影響などが書かれている。

クラウドの定義、分類は非常に分かりやすい。この前に読んだ「クラウドを実現する技術」ともかぶるところは多いが、本書の方が分かりやすいと感じた。

各社の動向としては、クラウド・ネイティブな企業とクラウド・イミグランドな企業と分けて解説している。前者はグーグル、アマゾン、セールスフォースドットコム、後者はマイクロソフト、IBM、オラクル、AT&Tだ。特定の企業の戦略を解説されてもと思うかもしれないが、クラウドのキープレーヤーとしてはこれらの企業で十分だろう。しいて言えば、日本のいくつかの企業の取り組みを書いても良かったかもしれない。

「クラウド・コンピューティング時代の企業IT戦略」という章が興味深かった。ここには、コンサルタントのジェフリー・ムーア氏の考えが紹介されている。まず、コア/コンテクスト分析。「コア業務へ資源を集中し、それ以外のコンテクストはアウトソースするべき」といっている。また、ミッション・クリティカル/非ミッション・クリティカル分析というものもある。こちらは「万一停止した場合、深刻なリスクになる業務をミッション・クリティカル、それ以外を非ミッション・クリティカル」と呼んでいる。この2の分析を掛け算した2x2のマトリクスを考える。

  • コンテクスト/非ミッションクリティカル:他社との差別化につながらず、重要度も低いため、SaaSの利用が有効
  • コンテクスト/ミッションクリティカル:SaaSの対象となるが、SLAには注意が必要
  • コア/非ミッション・クリティカル:研究プロジェクトや実験的試行など将来的に競争優位を生み出す可能性もあるが、成果を出せない可能性もある。ここもクラウド、特にPasSやHaaSの利用を検討
  • コア/ミッション・クリティカル:ここは最も重要度が高いため、自社リソースを投入して開発を行うべき

課題は、まだいろいろあると思うが、企業活動の多くにクラウドを活用し、効率化することで、自社の強みを強調する戦略を取れることがわかる。いち早くこのような考えを理解し、実践することがこれからの時代に生き残れるかの分かれ目になるだろう。

また、クラウドが普及することにより、ソフト/ハード/ネットワーク機器のベンダー、SIer、レンタルサーバ事業者、データセンター、PCなどあらゆるものが変化していく。私の会社はいわゆるSIerなどので、SIerがどのように変わるか興味がある。先ほどの2x2のマトリクスでいうところの、コア/ミッションクリティカル以外は、クラウドに置き換わるため、サーバやミドルウェアを含めたSIは必要ない。よって、コア/ミッション・クリティカルな部分のみとなるため、案件は確実に減る。また、中堅以下のSIerは、増加するSaaS上でのアプリケーション開発やカスタマイズを行なうことになるだろう。気を付けないと、時代に取り残されて仕事がないという状態になりかねないな。

この前に読んだクラウドを実現する技術とは違って、クラウドによって何がどう変わるか?課題は何か?これから必要なことは何か?など、クラウドに関わる人すべてに知っておいてもらいたいことが書かれている。クラウドに関わる人は(関わらなくても)一度は読んでおくのをオススメする。

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